ぶどう膜炎の話 その4 ベーチェット病について:シルクロード病?
投稿日:2017.09.06

「シルクロード病」と呼ばれるぶどう膜炎とは?

以前、法隆寺宝物展を見る機会がありました。いにしえの宝物達の中でも、ペルシャの壷や西アジアの琵琶が、今なお、その美しい姿をとどめ、輝いているのに驚き、遠い旅をしたであろう、はるかなシルクロードに思いをはせたことがあります。その昔、シルクロード(絹の道)と呼ばれた長い長い交易路を経て、ヨーロッパや西アジアの文化が東の果てのわが日本へ伝えられたことは、歴史の授業で教わったことがあると思います。ところが、伝わったのは、文化や宝物だけでなく、病気の中にも伝えられたものがあるかもしれないそうです。

ぶどう膜炎(眼内の炎症)、口内炎、にきび様の皮疹、陰部潰瘍などの症状を主として、他に関節や消化器、血管系、中枢神経系などにも炎症を繰り返すことのある病気があります。ベーチェット病という、トルコの先生の名前のついた病気です。そして、この病気は、イタリア、ギリシャ、イラン、イラク、シリア、イスラエル、レバノン、トルコ、韓国、台湾といった、地中海沿岸、中東諸国から日本近隣にかけて多く見られます。

患者さんは、日本を含めて、北緯30度から45度のアジア、ヨーロッパ諸国に多く、この地域の調査にて、ヒトの主要組織適合抗原(HLA)と呼ばれる、免疫に関係する蛋白質の、ある形のものを持っている人に、病気が多いことが分かりました。そして、この蛋白質は人種を越えて、この病気と関係があることが分かりました。そこで、その昔、シルクロードを色々な国の人々が行き来する中で、この病気と関係したHLAを作る遺伝素因が、シルクロード沿いの国々に広まり、今日に及んでいるのではないかと考えられ、「シルクロード病」と呼ばれることがあります。

ただ、病名はロマンを含んだ優しげなものですが、その診断と治療は、専門的な知識や経験も必要で、眼科を始め、色々な科との連携も必要になることがあります。決して、放置しないようにして、主治医の先生と相談しながら、病気の管理をしていくことが必要です。そして、今、遺伝子レベルでの病気とその発症メカニズムの解明が進んでいます。また、最近は新しい治療薬(抗TNFα抗体:レミケード)の使用も広がり、激しい眼発作を抑えることができるようになってきました。ただその使用には、注意深い管理が必要です。研究が進めば、将来もっと安全で効果的な病気の治療や、発症を抑える方法が見つかるのではないかと思われます。